カンタータ『主よ、人の望みの喜びよ』を聴く

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おそらくバッハの一番有名なカンタータの曲は『主よ、人の望みの喜びよ』という合唱曲でしょう。今日はこの曲を聴きます。

曲の出自

この曲はJ. S. BachのカンタータBWV147  Herz und Mund und Tat und Leben「心と口と行いと生き方が」の10曲目の合唱曲 Jesus bleibet meine Freude「イエスは私の喜びであり続ける」を指します。歌詞はドイツ語です。

カンタータ全体の邦題、各曲の邦題は一致しないことがあります。wikipediaでも「心と口と行いと生活で」と書かれていましたが歌詞は muß von Christo Zeugnis geben「キリストについての証を与えなければならない」と続くためこの四つの単語は主格、主語であることがわかります。このため「〜で」よりは「〜が」「〜は」と訳すのが適切です。

10曲目と同じ構成の歌詞違いが6曲目にもあります。そもそもこのカンタータは二部構成になっていて前半6曲、後半4曲に別れ両方の部の最後に同じ曲が演奏されるという作りになっています。

タイトルについて

曲のタイトルは『主よ、人の望みの喜びよ』と一般に呼ばれていて、先ほどのJesus bleibet meine Freude「イエスは私の喜びであり続ける」と違うように思えます。『主よ、人の望みの喜びよ』は元のドイツ語から訳されたものではなく英語のタイトル Jesu, Joy of Man’s Desiringから訳されたものです。カンタータが訳されるときには意味を忠実に訳す場合と大体の意味を汲み取った上で歌うことができるように訳す場合があります。この英訳は後者のほうです。

以下は最初の一連ですがメロディに沿って歌うことができます。また1行目と3行目、2行目と4行目でそれぞれ-ing、-ightと韻を踏んでいます。

Jesu, joy of man’s desiring,
Holy wisdom, love most bright;
Drawn by Thee, our souls aspiring
Soar to uncreated light.

結果として日本で有名なこの曲のタイトルは原語の歌詞の意味からかけ離れたものになっています。

歌詞の訳

ざっと歌詞の意味を見て見たいと思います。主語とその補語は、動詞は、目的語はにしています。

Jesus bleibet meine Freude,

イエスは私の喜びであり続ける

bleibetは英語のremainに相当して目的語は取りません。meine Freude「私の喜び」は主格でイエスの言い換えになります。

meines Herzens Trost und Saft,

私の心の慰めと力の源で(あり続ける)

Trost und Saft「慰めと力の源」も主格でmeine Freudeと並んで主格の言い換えになります。

Jesus wehret allem Leide,

イエスは全ての悩みに抵抗する

「悩みから守る」という訳もできます。allem Leideは与格なので「全ての悩みに対して」という意味になります。1行目のFreudeとLeideで韻を踏んでいます。しかもこの二つの単語は対義語にもなっています。

er ist meines Lebens Kraft,

彼は私の生命の力だ

2行目のSaftとKraftで韻を踏んでいます。両方ともポジティブな単語で1行目と3行目の対義語と2行目と4行目の同義語でバランスを取っています。

meiner Augen Lust und Sonne,

私の目の楽しみと太陽だ

この行と次の行は動詞istの影響下にあります。Lust und Sonne「楽しみと太陽」はer「彼」の言い換えになります。meiner Augen「私の目の」は複数属格です。前の行のmeines Lebens「私の生命の」や次の行のmeiner Seeleも属格ですから「私の〜の〜だ」という言い方が3回続くことになります。

meiner Seele Schatz und Wonne;

私の魂の宝と恵みだ

前の行のSonne「太陽」とWonne「恵み」で韻を踏んでいます。

darum laßich Jesum nicht

だから私はイエスを放さない

ドイツ語の通常文では動詞が二番目に来れば主語は先頭でなくても文法上問題ありません。

aus dem Herzen und Gesicht.

私の心と視界の外へは

Gesichtは「顔」ですが「視野」の意味もあります。前の行のnichtとGesichtで韻を踏んでいます。

鑑賞

およそ曲の背景がわかったところで聞いて見たいと思います。

別ブログですがドイツ語の発音を簡単にまとめてあります。参考にしてください。

ドイツ語の発音と文字

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コメント

  1. 丁子 清 より:

    私はドイツ語はかじったものの、使えることはできずに終わりました。英語はそこそこ使えます。今回の御講義は大変明快で素晴らしく思いました。以前から抱いていたこの曲の題に対する疑問が解けました。ありがとうございました。

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